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【恐怖の楽園体験】食べ物も天候もない閉じた楽園で生物はどうなるのか?

2025-01-15

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食べ物も病気も天候もない「楽園体験」の始まり

「楽園体験」が行われたのは1968年のことです。

60年前半、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)は、同国東部にあるメリラント州の近郊で農地を手に入れました。この土地に建設された施設で研究プロジェクトを行っていたのが、動物行動学者ジョン・B・カルフーン(1917~1995)です。

1940年代から1950年代にかけて、カルフーンはネズミの行動観察の中で、特定のエリアでネズミが繁殖しすぎると過密状態が生じ、マウスに異常行動や個体間の闘争増加などが現れることを発見しました。

また、カルフーンはこの現象が、都市化に伴って出現する社会的なストレスの類似性を持つ可能性について考えました。

都市では、物資の流通が豊富で、農村部と比べて非常に安定した環境であります。一方で、都市は人口密度が非常に高いことから、社会的なストレスが高まることが指摘されています。

そこでカルフーンは「有限された空間に一切の障壁がない楽園を作り、その中で生物はどうなるか?」と考えました。1968年の7月9日にマウスを用いた楽園体験を開始しました。

カルフーンの前提によれば、生物が生きる上での障壁は主に5つに集約されています。

その1:居住場所を失うこと

その2:食糧不足に陥ること

その3:異常気象や悪天候に襲われること

その4:感染症やウイルスの蔓延があること

その5:自分を食うことで「天敵がいる」こと

これら5つの障壁を完全に排除したマウスのパラダイスを作り出したのです。その具体的には、直径2.7メートルの四方を高め1.4メートルの壁で囲み、その中に16個の巣穴と256個の居住エリアを設定しました。

水や食料は無制限に得られるようにし、衛生状態にも注意し、エアコン等で常に快適な気温を保ちました。

しかし、自然環境の中では、各々が好ましい巣穴や居住エリアを探し、いつでも均等に生きるようになっていくことが課題でした。

そして実験開始から104日目、ついにオスとメスのマウスのつがい「楽園ペア」が誕生しました。

カルフーンは、マウスが楽園生活に慣れてから最初の子供が生まれるまでの期間を「ファースト:適応期」と呼びました。ここからマウスはするすると増えていきますが、次第に望ましくない影が忍び寄ります。

カルフーンの実験は、彼の予想以上に生物たちが安定的に生活し続けていたことを示唆していましたが、過密の兆候が見え始めると同時に、マウスたちの行動に異変が起こり始めました。