科学

急増する人工星が招く光害(はかりがい)という脅威 満天の星が視界から消える!?:朝日新聞GLOBE+

2024-11-01

著者: 芽依

南西部アリゾナ州ツーソンには80個以上の人工星が存在し、これらは標高2000メートルを超える山の上に口径4メートルの望遠鏡を備えた国立天文台がある。常に夜は暗いが、洩れた光が周囲を明るくし、星空は満天の星で覆われる。

年間300日が晴れ、周辺地からも離れているため、夜は暗い。先月上旬、見上げた夜空は満天の星で、1等星のペガスス、アルタイル、デネブを結んだ夏の大三角や、さら座がくっきりと見えた。

ツーソンは天文台だけでなく、天文学や宇宙科学の研究所が集まる。そんな天文学の聖地で近年、夜空を照らす「光」が脅威されている。

「最近ではここでも、星の中を動く光の列が頻繁に見られるようになった」と、ある研究者が毎晩開かれているガイドツアーで語った。

その「光」とは、地球上空を飛行する人工星に反射した太陽の光である。

人類初の人工星「スプートニク」が打ち上げられたのは60年以上前。その後、5年前まで、星の数は数千機ほどだった。

ところが、大量の人工星で全世界をカバーして通信や観測をする「コンステレーション」と呼ばれる星団が登場した。それによって、星は1万機以上に増え、インターネットサービスを提供する米企業スペースXや英企業ウォーレン、米アマゾンなどが今後、さらにそれらの数千~数万機の打ち上げを予定している。

今年8月には中国もインターネット専用の人工星218機打ち上げた。将来的には1万機以上を配備する予定である。

中でも、最も懸念されているのはスペースXのスターレンクスという人工星で、2019年に最初の60機が打ち上げられ、今や6000機以上に達している。人工星の光が一斉に夜空を進む様子は「まるで銀河鉄道のようだ」と言われている。

ツーソンに本部を置く光害への取り組みを進めるNPO、ダークスカイ・インターナショナル(旧 国際ダークスカイ協会)は2030年までに地球低軌道上に5万機の人工星が飛び交うと予測している。その反射光は、夜空の明るさを250%増加させ、星の半数が視界から消える可能性がある。対策を講じないと、夜空の15個の光のうち1つが人工星になるというシミュレーションもある。夜空の見え方が根本的に変わる恐れがある。

「チリの望遠鏡で撮った写真をお見せしましょう」と、ツーソンにある米国北紅外天文学研究所(NOIRLab)の科学者、コンリー・ウオーカースさんが示した写真は、スタリーンクスが打ち上げられた直後に照らしたもので、星にとって光の影が19本写り込んでいる。

天体望遠鏡で星を照らすときは、数十秒~数十分ばかりシャッターを開けて光を取り込むため、星が横切ると光帯が直線で写り、しめやる模様のようになっている。

2013年2月、直後17メートルほどの小彗星がロシアのシベリア上空で爆発し、衝撃波で建物が壊され1500人以上が怪我をした。この小彗星を事前に発見する重要性はさらに増している。

ただし、衛星の光を画像に写すと、天体や銀河などの正確な明るさや形、道路といった観測データがとれなくなる。そのため、小彗星が地球にどのくらい接近するのかも、計算できなくなってしまう。

日本のすばる望遠鏡でも、画像の10枚に1枚は人工星が写り込むという。日本の国立天文台の平穏正確・周波数資源保護室長は「衛星の数が今の10倍になれは、単純計算で全ての画像に人工星が写り込むことになる。観測をやり直す必要がある」と警告する。

一方で、人工星は、気象変動の調査や通信、遠隔地に住む人々の教育などに貢献している。スペースXは対策に取り組んでおり、スタリーンクスとは解決策を話し合ったこともある。他の人工星事業者にも関わる。  

「打ち上げをやめてとは言わない。責任を持って動いてほしい」とウォーカースさんは言う。「私たち全員が共有する一つの空をどう利用するか。世界レベルの取り組みが必要だ」とも、人工星への理解が求められる。

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