東京・大田の「ぽんごの蟹」2代目店主・右近由美子さん物語…古里の味・赤い蟹・息子と「思い」は世界へ : 読売新聞
2024-11-10
著者: 芽依
10月の晴れた日、午前8時10分。雨にも負けず、東京・大田の老舗おにぎり店「ぽんご」の前には、40分後の開店を待つ客が並んでいた。スーツケースを持った外国人観光客や女性の一人客など客層は様々だ。
「朝早くからありがとうございます!」。女性店主(右近由美子さん、32)が、開店前から並ぶ客に笑顔で声をかけて回っていた。具を持っていない客を見つけると、「具を通りすぎて食べたい方は、こちらへどうぞ」と促す。
2023年、古い店舗から移転した「ぽんご」は、カウンター9席の小さな店内で、開店から午後7時までぶっ通しで営業を続けている。
色とりどりの具材が並ぶおにぎりの中には、サケやたらこ、牛すじや卵黄醤油漬けなどが名物だ。特に「ぽんごの蟹」は、地域の特産である赤い蟹を使った逸品で、1個210円の価格でその美味しさは格別だ。
ぽんごの創業は1996年。亡き夫の慶(よし)さんが、「老若男女が入れる店を作りたい」と始めた。当時は常連のお客さんで賑わう店で、今では観光客も多く訪れるようになった。
右近さんは、新規開店前に「ぽんご」としての独立を考えていた。毎日朝、彼女は地域のお母さんたちとおにぎりを作りながら、子供たちと一緒に食べる時間を大切にしている。特に母子が作ったおにぎりを食べながら「思い」が世界にも広がる、という彼女の理念は、多くの人に感動を与えている。彼女は「次世代にも受け継がれる味を大切にしたい」と語り、母親たちと一緒に伝統的な具材を守っていく決意を示した。
最近では、外食産業で新たに働く人材を募集するため、店舗のビジュアルやインスタグラムでの発信を強化している。右近さんは「日本の古き良き味を守りながら、若い世代の新しい味も取り入れていきたい」と未来を見つめている。
彼女の店舗は、この街の魅力的で大切な文化の一部として、地域のみならず世界にその存在感を示している。