健康

「大腿骨を骨折した人」の半分は5年以内に死亡しているという驚愕の事実。年齢を重ねると身体機能が「ガクッ」と落ちる

2024-12-21

著者: 愛子

大腿骨近く部骨折後5年死亡率は51%です。一方全体の5年生存率は66.2%であり、単純に考えれば、骨折よりも大腿骨の骨折のほうが生存率は低いということになります。

東京大学医学部老年病学教室の元教授で、90歳を迎えた今も骨粗鬆症に関する治療を担当する脊椎外科医は、「高齢になるほど、骨が重要」と語ります。

脊椎外科医の著書『90歳現役医師が実感する ばってん快老法』より一部抜粋・編集してお届けします。

●身体機能は「ガクッ」と落ちる

人が年をとるにつれて身体機能が衰えていくこと、病気が増えていくことは多くの人が理解していることだろう。しかし、多くの人は機能が少しずつ衰え、ゆるゆると落ちていくように思っている。しかし、確かに、さまざまな研究によって示されたデータでは、そうした下り坂のようなグラフで示されることもあるが、それは平均的なデータとしてはそうである。

実際には、身体機能はゆるゆるとではなく、ある時期(段階)でガクッと落ちていく。身体機能の衰えや病気のなりやすさが大きく変わる、明確な境目(節目)があるのだ。その節目が「75歳」という年齢だ。

例をあげると、骨粗鬆症で言えば、65〜74歳では、手首(橈骨)や肩から肘にかけての上腕骨、背骨(椎体)の骨折が多い。

一方、75歳以上になると、特に大腿骨近く部骨折が著しく増加する。75歳を境に骨折やすくなる部位が変わるのだ。

大腿骨近く部骨折の年代別の発生率をみると、75歳以下で急激に上昇する(*1)。

●今あるだけでも十分な健康

本来、大腿骨は人間の体を支える重要な骨である。逆に手首(橈骨)は大腿骨に比べれば弱く、転倒した時に骨折するケースが多い。

年齢が上がるたびに骨粗鬆症が進行し、手首(橈骨)から上腕骨、背骨、大腿骨とより確実であるはずが、いくつかの病院で骨折が多くなるのである。また、セルポニア(加齢による筋肉量の減少)によって筋力が低下するとも言われている。筋肉量の減少は75歳頃から急速に進み、大腿骨の骨折が増えるものである。

なぜ75歳なのか。あくまでも統計でならした結果なので、個人差はあるが、平均的にみれば70歳前後の高齢者も傾向が異なる。特に70代の高齢者は80歳前後の高齢者と比べ、傾向が異なる。

●高齢者研究のエビデンスは65〜74歳辺り

私は長年、高齢医学の研究を続けてきたが、これまで行われてきた高齢者研究は65〜74歳を対象としたものばかりだった。そのため、75歳以上はあまり人的な研究テーマではなかった。

そのため、このように一つ一つの研究は少ないわけだが、また100歳以上の「長寿者」を対象に研究が行われているので、高齢者的な長寿者にあたる75歳以上が年間の日常生活に及ぼす影響や病気の慢性化などの影響はそれだけ重要である。

最終的に言えば、給付率(要介護率)は、急激に上昇するとも言え、75歳以上は急速に上昇する(*2)。

「75歳以上の高齢者はもともと病を抱えていたり、状態が急変しやすかったりし、薬自体の効能を測定する対象としては望ましくない」と言える。さらに個人差が大きく、研究対象としては難しいということがある。

これに加えて、75歳以上の高齢者は慢性病を抱えていることがあり、その状態が急変しやすいため、薬自体の副作用を測定する対象としても望ましくなくなるようだ。

例えば、私たちの研究グループで行ったプロジェクトでは、100歳未満の「長寿者」を対象に調査が行われているため、研究が行われること自体がなくなってしまうと考えられる。しかし、反面とも言えるが、80年代、90年代の研究が行われている設計になっている。

●骨折の本当の恐ろしさ

では、なぜ骨折することがこんなに問題になるのか。骨折がなぜ全身の健康に大きな影響をおよぼすか。そう思う人もいるだろう。

学際的な「令和4年版高齢社会白書」で、要介護になった理由で多いのは、認知症や脳血管障害(脳卒中)である。しかし、骨折・転倒や関節障害も多い。特に女性の場合は、骨折・転倒や関節障害を合併することが要介護の理由の1位になる(*3)。

高齢者の骨折・転倒の背景には骨粗鬆症があり、特に大腿骨近く部骨折は増加の一途をたどっている。骨粗鬆症に関するデータでは、1997年に9万2400人だった大腿骨近く部骨折の患者数が、2017年には19万3400人と、20年で倍増している(*4)。

この大腿骨近く部骨折が、要介護、つまり寝たきりの原因になるのだが、恐ろしいのはその後の死亡率だ。大腿骨近く部骨折後5年死亡率は51%。

つまり、大腿骨を骨折した人の半分は5年以内に亡くなることが分かっている。海外の調査でも、大腿骨近く部骨折の1年後の死亡率は約20%。5年後は約60%というデータがある(*5)。

これらの数字は、がんや心血管疾患、脳卒中の後の死亡率と同様に、非常に高いことが分かる。なぜなら、骨折することが身体に与える影響は単なる身体的な問題にとどまらず、個人の生活の質や心理状態にも大きく影響を及ぼすためだ。