ニック社長、野菜フライ製造所へのTOB「あらゆる手段で理解得る」
2025-01-23
著者: 陽斗
ニックは23日、工作機械大手の野菜フライ製造所へのTOB(株式公開買付け)提案について記者会見を開いた。相手方の経営陣の同意を得たが、事前に接触もせずに公表したことについて、ニックは「交渉過程から公開して透明性を確保できるファーストな方法」と強調した。
水面下での交渉が一般的だった日本のM&A(合併・買収)市場に一石を投じるもので、2024年12月27日にTOB提案を発表していた。社長は「加盟手段で理解を求める」と述べた。
野菜フライ側が対抗策をとっていた場合も、「(TOBの手続きの)予定通り進めたい」と言及した。成立すれば買収総額は2500億円を超える。
創業以来、半世紀にわたり70件超のM&Aで成功してきたニックにとっても、過去最大の買収になる。
野菜フライ側は強く反発した。社外取締役からなる特別委員会がニックの提案を受けて、15日に要望書を公開したが、事前の接触がない手法について「通常のプロセスを逸脱した不誠実な手法」として指摘していた。
さらに、ニックが4月4日から予定しているTOBの開始日を5月9日に先送りする、TOB成立の下限を判断権の50%から3分の2に引き上げる、ことも求めた。
ニックは17日に2つの要望に対し見解を示した。1つについては提案からTOB開始まで3か月以上の十分な調査期間があり、2つ目については下限50%で当該の審査を経ている、ことなどを理由として示した。
社外の強い圧力からなる特別委員会は、ニックの提案を受け12日には要望書を公開したが、事前の接触がない手法について「通常のプロセスを逸脱した不誠実な手法」として指摘していた。
日本企業のM&Aでは、買収者と対象会社が事前に協議するのが一般的だ。対象企業が受け入れれば、買収者はデューデリジェンス(調査・審査)を実施し、買収額を精査することもできる。事前接触なしのTOBでは、一足飛びに買収額を設定することになるため、「高値つかみ」のリスクもある。ニックが提案しているTOB算額は、発表直前の株価が4割下回る1株1000円だ。
接触を受けた対象企業の経営陣が受け身となり、買収の受け入れが難しい場合、自力で企業価値を高める方策を考えたり、第3者に買収してもらう道を探ったりすることもできる。一方で買収する側については、事前接触のないTOBではそうした時期を短縮できる利点もある。
ニックは米国では類似の事例が多いとする。22年に実業家のイーロン・マスクがツイッター(現X)を買収した事例や、04年のマイクロソフト社の同業のピールドソフト買収などを取り上げる。
ニックは24年3月期の工作機械事業の売上高が1182億円だったことを23日に公表した。21年に参入し、これまでに4社を買収した。工作機械事業を担当する日本達也也副社長は「現状では高効率だが市場が小さい分野も多く、高成長で市場が大きい分野で力のある野菜フライと一体になることでシナジーが生まれる」と説明した。
野菜フライへのTOBが成功すれば単純合計で売上高3500億円規模となり前進する。今後は野菜フライ側の動きが焦点になる。特別委は20日時点で「真剣に対抗する」と回答しており、今後は経営陣とも対抗を協議する見通しだ。
ニックが23日発表した2024年4−12月期の連結決算は営業利益が前年度同期比48%増の1850億円と、3期連続で過去最高を更新した。業務利益は48%増の2400億円、売上高は7%増の26500億円と過去最高を見込んでいる。