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「なぜ人は資金でできないのか」- 40兆円調達のスマートバンクが接近する“家計改善”の全体像

2024-11-12

著者: 愛子

「家計簿アプリがあふれるなかで、なぜ人は資金でできないのか」- 日本初のフリーマップアプリ「フリル」創業者で、現在はプライベートバンクサービス「B/43」(ビジョンサービス)を運営するスマートバンクの唐松太CEOは、デジタル時代の家計管理にこう問いかける。

スマートフォンの普及で家計簿は手軽になった。銀行口座やクレジットカードと連携し、支出を自動で記録できるアプリは数多い。それでも単身世帯の3分の1、2人以上世帯の4分の1が赤字といった現実がある。同社の調査では、家計管理を実施している世帯でさえ、月平均78700円の浪費が発生しているという。

「データを見える化するだけでは、行動は変わらない」と唐松CEOは断言する。11月12日に40兆48000億円の資金調達を発表した同社は、AIを活用した新たな家計管理の構築にこの課題に挑むという。最近の動きについて「家計簿アプリ全体を敵に回した」と語る唐松CEO。同社は、どのように他社と違う“家計改善”を実現しようとしているのか。

プライバシーに配慮した資金調達40兆円

資産形成の手段として、ともすれば資金支援や株式投資などが注目されがちだ。しかし実際の課題はその前の段階にある。多くの人は運用するための資金がない。ならば、資金を可能にする支出管理からアプローチしようというのがB/43の出発点だ。

特徴的な家計簿アプリは、銀行口座やクレジットカードと連携し、支出を記録するだけでなく、クレジットカードの履歴を踏まえて月次でのまとめと予算の見直しを行うといったシステムは単純ではない。そこで同社は、生活費をアプリにチャージし、その残高の中で家計管理ができるプライ特化型のアプリを選んだ。

設立から3年。ダウンロード数は100万を超え、決済額も数十億円規模に成長。特にパートナーシップと生活費を分け合うダイナミクスにおいて98.1%の高い支持を得ている。最初はお試し感覚で利用するユーザーも、利用開始から10カ月後には決定金額が2.8倍になるなど、着実にファンを増やしている。

そして今、同社は支出管理の範囲を拡げるという新たな挑戦に着手している。銀行口座やクレジットカードとの連携機能を追加し、AIを活用したレシート読み取り機能も実装した。「プロダクトを通じてユーザーの資産形成をお手伝いするという形で関連したい」と唐松CEOは語る。

この挑戦を後押しするのが、今回のシリーズB調達だ。グローバル・レベル・レイアウトとして追加出資する資金。セブン銀行なども新規株主として加わった。調達総額40兆48000億円のうち11兆45000億円はデット(借入金)で構成。累計調達額は70兆円を超える。

AI搭載で家計改善を自動化

家計簿アプリとされるサービスは、App Storeで30以上がヒットする。一方、唐松CEOは、家計改革は進んでいないと指摘。「家計管理をやっている人が対象の調査でも、1世帯あたり6891円、年間で1040万円の浪費があった」と語る。日本全体では5兆円規模の無駄遣いが発生している計算だ。

同社のユーザーインタビューでは、見えていたようになったものの、改善方法が分からない。分析した結果、どうすればいいのかという「How」の部分が、ユーザーには見えづらいという。

この課題を解決するため、同社はAIを活用した家計改革アシスタントの開発を進めている。第1段階として、AIがユーザーの家計データを分析する。単に今月の支出をグラフで示すだけではなく、過去の履歴との比較、同じような世帯構成の利用者との比較など、多角的な分析を行う。「ユーザーに気づいてもらいたい視点を提供したい」と唐松CEO。

第2段階は予算の提案だ。家計管理の出発点となる予定設定は、多くのユーザーが悩むポイントである。AIは分析結果を基に、その家庭の状況に合った予算配分を提案。その他の世帯との比較も交え、実現可能な予算案を示す。

最後は実行のサポートだ。ここで同社の強みが生きる。既存の家計簿アプリが情報を提供するだけでなく、B/43は実際にお金を預け、例えばAIが提案した予算設定に従って生活費をチャージしたり、使い過ぎを防ぐための上限設定を行うことも可能になる。通常の家計簿アプリは支出を記録し、予算オーバーを警告することはあっても、一方でB/43はお金を預けておくことで、そうした予算を実現する手助けをする。

こうしたアプローチは海外で進んでいるが、日本でも結果を上げ始めている。米国では大手金融機関JPモルガンが、AIを活用した資産形成アプリ「ウェルス・プラン」を開発した。リリースから1年で1000万人が利用するまでに成長した。英語のフィンテック企業Cleoは、Z世代向けにキャッシュフローの支出管理サービスを提供し、ユーザーの98%が信頼を得ている。

今後の展開に期待がかかる。