科学

魔方陣の難解証明 着手30年・計算12年、鉄壁に魅せられ職業を見失う [山梨県]:朝日新聞デジタル

2024-09-16

1992年、山梨大学の助教授であった美濃英貴さん(62)は、研究室の教授からある難解な数理問題「魔方陣」を見せられた。

この難解な数学パズル「魔方陣」。つまり、横・縦・斜めの合計が同じ数字になる並べ方は全てで、1~25の数字をすべて使い切る縛りもあり、その解法は全く見当がつかないものだった。5730年や5224通りあると報告された。

米国の数学者が大規模計算機を724時間従事し、数を上げていた。「そんな計算でできると思う? そんな気がしないけど……」と教授は苦笑交じりに答えていた。

コンピュータ科学が専門の美濃さんは挑戦してみた。数ヶ月かけてプログラムを組み、学内のコンピュータを24時間計算させたところ、「返答が来たあの時が一番の感動だった」。

次の壁は、縦・横・ななめの6つの魔方陣の総数であるが、権威の多さから攻撃不能と恐れられた。しかし、いつか解かれるかもしれない。30歳。「誰かが解きましたというニュースを聞くのも嫌だったな」と、30歳にして挑戦が始まった。

予想では18000000000000000000通り

魔方陣は、縦・横・斜めの数の合計が等しくなる。最も単純な縦・横・斜め3マスの3つの魔方陣は、真正に5、外のマスに4、9、12、17、16、11、18、13を順に入れれば、どの列も合は必ず15になる。マスを数値で積むパターンは4万通り以上あるが、魔方陣となる解は1通りしかない(返転と反転は同一とみなす)。

一方、マスの数が増えると、解の数は急激に増える。

1~16の数を使った4次の魔方陣(16マス)は880通り。1~25の数を使った5次の魔方陣(25マス)は約2.7兆通り。

6次の魔方陣となると、1~36の数でマスを積む全パターンは、14.6×10の40乗(4.6としても)。地球上に存在する数よりも多いパターンの中から、魔方陣を満たす解の数を一つずつ数え上げなければいけない。

先行研究で、総数は1800京(1.8×10の19乗)までと見積もられていた。気の遠くなる数え上げに挑戦した美濃さんだが、当初はなかった。現在の計算スピードは3万年かかるレベル。理論的に数えることは不可能。コンピュータの進化を待ちながら、研究の端っこに取り組み始めた。

手当たり次第、マスに数を当てはめて確かめることもできるが、計算量が膨大になるため悪手だ。

ポイントは「無限を捨て、取りこぼしがないように数え上げること」。全パターンのうち、解はごく一部。解が明らかに存在しない領域は無視して、解がありそうな領域をもれなく探査する手法を探った。

世界中のPCで計算することは134000時間。

散歩する時や眠る前も考える。いちどにまとめて数えられる対象性も見つけた。少しずつプログラムの改良を続けた。

家族には何も知らせなかった。「数学のパズルをやっている」と妻の美咲さんに一度伝えたことがあったが、「それってお金になるの?」、「ならないよ」と。そうだった。

挑戦のマドが付いたのは2022年11月のプログラムが完成した。計算に使うのは、ゲームやCGで用いられるGPU(画像処理装置)。通常のコンピュータよりも同時並行で大量に高速計算できるメリットがある。

世界中にあるGPUパソコンをネットワークで連携し、計算を始めた。パソコン側のエラーで計算を間違えることもある。2回数え上げて検算もした。

かかっていた時間は、のちに13000万時間。平均して8台で約2年間計算を続け、今月5月31日、6次の魔方陣の総数が確認された。

1775京3889万6197…