2023-2024年シーズンの日本におけるインフルエンザウイルスの流行状況と抗ウイルス薬耐性株の概要(速報)
2025-01-06
著者: 蒼太
2023年10月から2024年9月まで、日本全国でインフルエンザの活動を監視し、バロキサビル及びオセルタミビルに対する耐性のあるインフルエンザ株の出現を評価する調査を実施しました。
インフルエンザの流行曲線
インフルエンザウイルス陽性患者の数は、サンプル採取日を基に週ごとに集計し、流行曲線を作成しました。2023年10月(第40週)から調査が開始され、11月中旬(第46週)にピークを迎え、その後徐々に患者数は減少しました。本州では2024年4月頃(第15週)までインフルエンザ流行が続きました。COVID-19パンデミック前はインフルエンザの季節ピークは通常1月から2月でしたが、2023年はシーズンが早く始まりました。一方、沖縄では4月以降もインフルエンザの症例が確認され、月ごとに散発的に症例が観察されました。
インフルエンザのサブタイプと流行パターン
シーズンの初期から、A(H1N1)pdm09とA(H3N2)が同時に流行していました。B/Victoriaは12月に少数検出され、2024年1月下旬にピークに達し、4月中旬まで主流となりました。2024年5月以降は、沖縄で主にインフルエンザウイルスが検出され、主流のウイルスはA(H1N1)pdm09にシフトしました。
抗ウイルス薬耐性の遺伝子マーカー調査
バロキサビル及びオセルタミビルに対する耐性を持つ遺伝子マーカーの調査が行われました。PAおよびNA遺伝子の変異がRT-PCR、次世代シーケンシング(NGS)、およびサンガーシーケンシングを用いて検討されました。
前治療サンプル
前治療サンプルからは、A(H1N1)pdm09が80件、A(H3N2)が68件、B/Victoriaが33件(全て初診サンプル)分析されました。バロキサビルに対する耐性変異はRT-PCRやNGSによって検出されませんでした。
バロキサビル治療後のサンプル
初診時にサンプルを採取し、その後3-7日後にフォローアップのため再来した患者のサンプルを採取しました。14件のA(H3N2)患者サンプルのうち1件がPA/I38T変異を示し、普及率は7.1%でした。9件のRT-PCR陽性の治療後サンプルに限定すると、普及率は11.1%に上昇しました。NGSはA(H3N2)サンプルでPA/I38T変異を確認し、変異ウイルスの割合は87.9%と推定されました。更に、4件の患者から得たB/Victoria陽性の治療後サンプルの1件では、NGSによりPA/I38T変異が確認され、変異ウイルスの割合は61.1%でした。ウイルス量が少なかったため、RT-PCRではPA/I38T変異は検出されず、この研究によるB/VictoriaのI38T変異の初めての検出となりました。
サンガーシーケンシング分析
161件の分析可能な初診サンプルの中で、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、またはBウイルスのPA遺伝子におけるバロキサビル耐性に関連する変異は検出されませんでした。しかし、13件のA(H3N2)陽性患者の治療後サンプルからは1件にPA遺伝子変異が認められ、普及率は7.7%でした。同様に、4件のB陽性患者の治療後サンプルからも1件でPA遺伝子変異が検出され、普及率は25.0%でした。サンガー解析可能な治療後サンプルに制限すると、A(H3N2)では25.0%、Bでは33.3%の割合でした。
オセルタミビル耐性
NA遺伝子のNGS解析が行われ、オセルタミビル耐性が評価されました。全181件の前治療サンプルでは、オセルタミビル耐性を示すNA遺伝子の変異は検出されませんでした。治療後サンプルには、A(H1N1)pdm09陽性の4件とA(H3N2)陽性の5件が含まれていましたが、これらのサンプルでも耐性変異は検出されませんでした。